大切な人の死を子どもに伝えるのは、とても難しいことです。しかし、子どもの年齢に合わせて適切に伝えることで、子どもの健全な悲嘆プロセスを支援し、将来の心理的な問題を予防することができます。
まず大切にしたい基本的な考え方
うそをつかず、年齢に合わせて伝える
事実を隠したりうそをついたりせず、子どもがわかる言葉で真実を伝えましょう。子どもは敏感で、大人が何かを隠していることに気づきます。
安心できる環境で話す
静かで落ち着いた場所を選び、時間に余裕を持って話してください。子どもが質問しやすい雰囲気を作ることが大切です。
一度だけでなく、継続して支える
一回説明すれば終わりではありません。子どもの成長に合わせて、何度でも話し合いましょう。
年齢に合わせた伝え方
2-4歳のお子さんには
この年齢の特徴
死を「いなくなっただけ」と考えて、「いつ帰ってくるの?」と聞くことがあります。難しい言葉はまだ理解できません。
どう伝えるか
「おじいちゃんは死んでしまいました。もう帰ってきません。痛くないし、お腹もすきません。体が動かなくなったということです」など、簡単でわかりやすい言葉を使います。
気をつけること
「お空に行った」「眠っている」といった曖昧な表現は避けてください。眠ることを怖がったり、混乱したりする原因になります。
5-7歳のお子さんには
この年齢の特徴
死の不可逆性をある程度理解し始めますが、まだ「自分や身近な人は死なない」と考える傾向があります。魔術的思考が強く、自分の行動や言動が死の原因だと思い込むことがあります。
どう伝えるか
「お母さんは病気で死んでしまいました。あなたが何かしたから死んだのではありません。お母さんはあなたを愛していました」のように、子どもが自分を責めないよう配慮して説明します。
こんな質問が出たら
「なんで死んだの?」「僕のせい?」といった質問には、ていねいに答えてあげてください。絵を描いたり、遊びながら気持ちを表現させるのも良い方法です。
8-11歳のお子さんには
この年齢の特徴
死の普遍性を理解し始めます。論理的に考えられるようになりますが、感情をコントロールするのはまだ難しい時期です。
どう伝えるか
死因についてもう少し詳しく説明できますが、怖がらせない程度にとどめます。「がんという病気で亡くなりました。お医者さんは一生懸命治療してくれましたが、治すことができませんでした」といった説明が適切です。
気をつけること
学校で集中できなくなったり、友達とうまくいかなくなったりすることがあります。担任の先生にも相談しておきましょう。
12歳以上のお子さんには
この年齢の特徴
大人とほぼ同じように死を理解できますが、感情の起伏が激しく、反抗的になることもあります。将来への不安や「なぜ人は死ぬのか」といった深い疑問を持ちます。
どう伝えるか
事実をありのまま伝え、質問があれば詳しく答えます。「一緒に乗り越えていこう」という気持ちを伝え、複雑な感情も受け止めてあげてください。
気をつけること
表面的には平気そうに見えても、心の奥では深く傷ついている可能性があります。必要に応じて専門家に相談することも大切です。
使ってはいけない表現
あいまいな表現
- 「天国に行った」「お星様になった」→ 混乱の原因になります
- 「神様が呼んだ」→ 神様を怖がるようになることがあります
- 「眠っている」→ 眠ることを怖がるようになります
誰かのせいにする表現
- 「良い子だったから神様が呼んだ」→ 良い子になることを怖がります
- 「病院が悪い」「お医者さんのせい」→ 医療不信につながります
感情を否定する表現
- 「泣いちゃだめ」「しっかりしなさい」→ 感情を我慢してしまいます
- 「お兄ちゃんなんだから」→ 年齢に見合わない負担をかけます
自殺の場合は特に慎重に
自殺の場合は、特に注意深く対応する必要があります。
年齢に合わせて段階的に伝える
小さなお子さんには「病気で亡くなった」程度の説明から始め、成長に合わせて詳しく話していきます。中学生以上では事実を伝えることも考えられますが、専門家に相談してから決めましょう。
周りの目から守る
世間の偏見から子どもを守るため、「誰に話すか」についても一緒に考えます。信頼できる大人(先生や親戚など)と連携することが大切です。
自分を責めないように
「あなたのせいではない」ことを何度も伝え、亡くなった人への愛情は変わらないことを確認してください。
こんな時は専門家に相談を
次のような状況では、小児精神科医や臨床心理士などの専門家に相談することをお勧めします:
- 数週間以上、眠れない・食べられない状態が続く
- 学校で問題行動が目立つようになった
- 退行現象(年齢より幼い行動)が長く続いている
- 自分を傷つけたり、死について強く関心を示したりする
- 極度の分離不安
長期的なサポートのために
思い出を大切にする方法を一緒に考える
写真を飾る、誕生日や命日に話をする、手紙を書くなど、亡くなった人とのつながりを感じられる方法を見つけてください。
質問にはその都度答える
「なぜ?」「どうして?」という質問は、成長とともに何度も出てきます。その都度ていねいに答え、子どもの疑問を受け止めてください。
新しい関係性の構築を支援する
亡くなった人との新しい関係性(思い出の中でのつながり)を築けるよう支えてください。これは健全な悲嘆プロセスの重要な部分です。
最後に
子どもに死について説明するのは、一度の会話で終わるものではありません。子どもの成長や性格、状況に合わせて、継続的に支えていくことが大切です。
あなた自身も辛い状況にある場合は、自分のケアも忘れずに行い、必要な時は専門家の力を借りることも重要です。
子どもは大人が思う以上に強い力を持っていますが、適切なサポートがあってこそその力を発揮できます。愛情を持って正直に向き合うことで、子どもは困難な体験を乗り越え、成長していくことができるのです。