■悲嘆反応■
大切な人を失ったとき、遺された方は情緒的な困惑、無気力、無関心を含む多種多様な感情を抱くことがあり、心身に変化が生じることもあります。このような反応を「悲嘆反応」と呼びます。これは、誰であっても起こり得るものです。さらに、感情の強さや、心身に生じる症状の種類や深刻さなどは、個人によって異なります。

■免責事項■
当該コンテンツは、助言ではなく一般的な情報の提供または著者の意見です。情報に基づいて何らかの措置を取る前には、専門家の意見・アドバイスを必ず得る必要があります。気分が沈んで、毎晩眠れないといった状況が長引き、日常生活や仕事に支障をもたらしている場合は、早めに医療機関や専門の相談窓口にアクセスしてください。また、自殺の危険が迫っている状態では、迷わずに警察(110番)や救急(119番)に連絡することが大切です。自殺念慮は波のようなものであり、同じ強さが長期間続くことはありません。現在の苦痛を緩和する効果的な支援が利用可能です。

■相談先の確保■
悲しみには個人差があり、正しい悲しみの方法というものは存在しません。また、死因の違いも遺族の悲嘆反応に影響を与えることが明らかになっています。悲しみは一人で抱え込まないようにすることが良いとされていますが、どのような援助もあなたの助けにならないと感じる瞬間もあるでしょう。死について悲しめなかったり、安堵したりすることも異常なことではありません。しかし、誰かの手助けが必要だと思ったときに、援助を求められる方法を確保しておくことは重要です。

札幌市の代表的な相談窓口としては、札幌こころのセンター(札幌市精神保健福祉センター)があります。全国の精神保健福祉センターは、全国精神保健福祉センター長会のウェブサイトでご確認いただけます。また、各保健所(厚生労働省 保健所管轄区域案内)や市町村の保健センターも、こころの健康や医療に関する相談を受け付けています。厚生労働省「困った時の相談方法・窓口」では、法的問題を含む様々な悩みや困りごとに対応する窓口や団体を紹介しています。

■一般的対処■
悲しみは、愛する人を失ったことに対する正常かつ自然な反応であり、その体験は人それぞれです。しかし、悲しみに対処するのに役立つ一般的な方法がいくつかあります。

1.自分の感情を認めること。悲しみは、悲しみ、怒り、罪悪感、混乱など、さまざまな形で現れることがあります。感情を抑圧するのではなく、感じ、表現することを自分に許すことが重要です。

2.他の人とつながること。友人や家族、支援団体に話すことで、つらいときに慰めや共同体意識を得ることができます。

3.自分を大切にすること。よく食べ、よく眠り、定期的に運動するなど、健康的なライフスタイルを維持することは、身体的、精神的な健康の増進に役立ちます。

4.亡くなった人を偲ぶこと。写真集やスクラップブックなどの記念品を作ったり、追悼式に参加したりすることで、大切な人とのつながりを感じたり、思い出に残すことができます。

■マインドフルネス■
マインドフルネスや瞑想は一定の効果が認められていますが、すべての人に同じ効果があるわけではありません。マインドフルネスや瞑想を行うことで、怒りや悲しみなど、対処することが困難な感情が呼び起こされる場合があります。そのため、医療機関に通院、入院されている方やカウンセリングを受けている方は、必ず主治医やカウンセラーの許可を得るようお願いいたします。

■悲嘆のプロセス■
自らの死の受容のプロセスは、古典的には否認、怒り、取り引き、抑うつ、受容という5段階を経るとされています。しかし、遺族に起こる悲嘆には通常とは異なる反応や経過をたどる場合があります。

悲嘆のプロセスについては様々が学説がありますが、人は悲しみを乗り越える過程で、次のような段階を経るとされています。

1.ショックと不信。喪失に対する麻痺と不信の状態にある段階です。

2.感情の混乱。悲しみ、怒り、罪悪感、不安などの激しい感情が表面に出てくる段階です。

3.抑うつ状態。この段階では、深い悲しみを経験し、普段の活動から撤退することもあります。

4.現実の受容。喪失の事実を受け入れ、自分の体験の意味を理解する段階です。

5.身体的症状。疲労、食欲不振、睡眠障害などの身体的症状が現れる段階です。

6.情報探索。喪失の詳細や、なぜ起こったのかを理解することを試みる段階です。

7.孤独感。孤立感や孤独感を感じる段階です。

8.希望。将来への希望を取り戻し、人生は良くなると信じる段階です。

9.引きこもり。反省し、癒すために一人で過ごすことが必要な段階です。

10.再係合。社会的な交流に戻り、生活を再建する段階です。

11.再構築。失った人なしで新しい生活を作り始める段階です。

12.受容。喪失を平和的に受け入れ、人生を前進させることができるようになる段階です。

悲嘆の体験は人それぞれであり、悲嘆のプロセスは人によって異なることを心に留めておくことが重要です。これらの段階の一部または全部を経験する人もいれば、そうでない人もいます。さらに、これらの段階を異なる順序で、あるいは異なる強さで経験する人もいます。また、必要に応じて、友人、家族、または精神衛生の専門家にサポートを求めることも重要です。

■子供との死別■
愛する人との死別は常に辛い経験ですが、特に親として子供を亡くすことは受け入れがたい経験となります。子供との死別に伴う罪悪感は、気持ちを和らげることさえも苦痛に感じさせ、悲嘆のプロセスを阻害する可能性があります。そのため、遺族は適切な支援を受けられないことがあり、悲嘆が複雑化する傾向があります。また、夫婦や家族間での悲嘆の表現や対処に差異がある場合にはトラブルが生じることもあります。同じ経験をした遺族の話を聞くことは、アドバイスや慰めの言葉よりも悲嘆のプロセスを支えることになる場合があるため、遺族の集いや援助グループに参加することも助けになるかもしれません。

■精神医療の変化■
歴史的には、死別による悲嘆反応が病気と認識されていなかった時代もありましたが、ICD-11(疾病及び関連保健問題の国際統計分類・国際疾病分類第11版)やDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版)の更新により、長期的に強烈な悲嘆反応が重大な機能障害を伴って持続する場合、医療的な対象となる可能性があるとされています。

Prolonged Grief Disorder(PGD)とは、喪失からかなりの時間が経過した後でも、持続的で強い悲哀が人の正常な機能を阻害することを特徴とする疾患です。以下は、PGDに対する一般的な治療法です。

1.認知行動療法(CBT)。この療法は、悲嘆の原因となる否定的な考えや行動を変え、健全な対処法を身につけることを目的としています。

2.アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)。この療法は、個人の心理的柔軟性を高め、喪失の感情的な苦痛に対処し、人生を前向きに歩むことを可能にすることを目的としています。

3.眼球運動脱感作および再処理法(EMDR)。目の動きを使って、喪失に関連するトラウマ的な記憶や感情を処理しやすくするセラピーです。

4.グループ・セラピー。個人的な治療とは異なる視点やアプローチを提供することで、新たな見方や対処方法を獲得することができるとともに、他の人との接点を作り、社会的支援ネットワークを形成することができます。

5.投薬。場合によっては、長引く悲しみに伴う抑うつや不安の症状を緩和するために、医師が薬を処方することもあります。

6.悲嘆の教育。悲嘆のプロセス、共通の経験、対処のための戦略について学ぶことは、悲嘆をよりよく理解し、管理するのに役立ちます。

7.マインドフルネスに基づく介入。マインドフルネスに基づくストレス軽減法(MBSR)やマインドフルネスに基づく認知療法(MBCT)などのマインドフルネスに基づく介入は、個人が自分の感情をよりよく管理し、ストレスや不安の感情を軽減するのに役立ちます。

最良の治療方針を決定するためには、PGDの治療経験がある精神衛生の専門家と協力することが重要です。治療計画には、上記のような介入を組み合わせることができ、個人の特定のニーズに合わせて調整することができます。

■参考文献■
厚生労働省 – 調査研究資料
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders
On Death and Dying – Elisabeth Kübler-Ross
World Health Organization – ICD-11