相続手続きの基礎知識

大切な方を亡くされた悲しみの中でも、相続に関する手続きは期限が定められているものが多く、早めの対応が必要です。

ここでは、相続手続きの基本的な流れと重要なポイントを説明します。

相続手続きの全体的な流れ

1. 死亡届の提出(7日以内)

市区町村役場に死亡届を提出します。これにより戸籍に死亡の記載がされ、相続が開始されます。

2. 遺言書の有無の確認

遺言書がある場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要です(公正証書遺言を除く)。遺言書の内容によって相続の方法が大きく変わります。

3. 相続人の確定と法定相続分

戸籍謄本等を取得して、法定相続人を確定します。配偶者は常に相続人となり、その他は以下の順位で相続人となります:

法定相続人の順位と相続分
配偶者と子が相続人の場合
  • 配偶者:1/2
  • 子:1/2(子が複数いる場合は均等分割)

※子が既に死亡している場合は、その子(孫)が代襲相続します。

配偶者と直系尊属(父母・祖父母)が相続人の場合
  • 配偶者:2/3
  • 直系尊属:1/3(複数いる場合は均等分割)
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
  • 配偶者:3/4
  • 兄弟姉妹:1/4(複数いる場合は均等分割)

※兄弟姉妹が既に死亡している場合は、その子(甥・姪)が代襲相続しますが、甥・姪の子への再代襲はありません。

配偶者のみの場合
  • 配偶者:全部
子のみの場合(配偶者なし)
  • 子:全部(複数いる場合は均等分割)
特別な相続分の計算
半血兄弟姉妹の相続分

父母の一方のみを共通にする兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方を共通にする兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)の相続分の1/2となります。

非嫡出子の相続分

婚姻関係にない男女間に生まれた子(非嫡出子)も、認知されていれば嫡出子と同等の相続権を有します。

4. 相続財産の調査

預貯金、不動産、株式などのプラスの財産と、借金などのマイナスの財産を調査します。

重要な期限のある手続き

相続放棄・限定承認(3ヶ月以内)

相続開始を知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きを行います。

  • 相続放棄:プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない(各相続人が個別に手続き可能)
  • 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も承継する(相続人全員で共同して手続きが必要)
  • 単純承認:すべての財産を承継する(何もしなければ自動的にこれになります)

限定承認の注意点:

  • 相続人のうち一人でも反対すれば限定承認はできません
  • 相続人の中に既に単純承認した者がいる場合、限定承認はできません
  • 相続放棄した者は初めから相続人でなかったものとみなされるため、残りの相続人全員で限定承認を行うことは可能です
  • 手続きが複雑で、財産目録の作成や債権者への公告など、多くの手続きが必要です
  • 実務上、限定承認が選択されるケースは少なく、多くの場合は相続放棄が選択されます

所得税の準確定申告(4ヶ月以内)

亡くなった方の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が申告・納税します。

相続税の申告・納税(10ヶ月以内)

相続財産の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に必要です。

遺留分制度

遺留分とは

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された相続財産の最低限の取り分です。被相続人が遺言で財産を自由に処分しても、遺留分権利者はこの権利を主張できます。

遺留分権利者と遺留分割合

  • 配偶者・子・直系尊属:遺留分権利者となります
  • 兄弟姉妹:遺留分権利者ではありません
遺留分の計算

遺留分の総額は、相続財産の以下の割合となります:

  • 直系尊属のみが相続人の場合:1/3
  • その他の場合(配偶者・子がいる場合):1/2

各相続人の遺留分は、遺留分の総額×各相続人の法定相続分で計算されます。

遺留分侵害額請求

遺留分を侵害された場合、侵害者に対して金銭による支払いを請求できます。請求期間は、相続開始と遺留分侵害を知った時から1年以内、または相続開始から10年以内です。

預貯金の相続手続き

各金融機関で所定の手続きを行います。必要書類は金融機関により異なりますが、一般的には以下が必要です:

  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書または遺言書
  • 相続人全員の印鑑証明書

不動産の相続登記

2024年4月から相続登記が義務化されました。相続開始を知った日から3年以内に登記する必要があります。法務局で手続きを行います。

年金の手続き

年金事務所または市区町村役場で以下の手続きを行います:

  • 年金受給権者死亡届の提出
  • 未支給年金の請求
  • 遺族年金の請求(該当する場合)

遺産分割の方法

遺産分割の種類

現物分割

財産をそのままの形で各相続人に分配する方法。「不動産はA、預金はB」というような分け方です。

代償分割

特定の相続人が財産を取得し、他の相続人に金銭等を支払う方法。不動産を長男が取得し、他の相続人に代償金を支払うような場合です。

換価分割

財産を売却して、その代金を分配する方法。不動産を売却して現金化し、相続人で分ける場合です。

遺産分割協議書の重要性

相続人全員の合意による遺産分割協議書は、以下の効力を持ちます:

  • 法定相続分と異なる分割も可能
  • 相続人全員の実印と印鑑証明書が必要
  • 各種名義変更手続きで必要
  • 後日の紛争防止

遺産分割調停・審判

協議が成立しない場合は、家庭裁判所での調停・審判手続きを利用します。調停でも合意に至らない場合は、審判で裁判所が分割方法を決定します。

特別受益と寄与分

特別受益

相続人が被相続人から受けた特別な利益(生前贈与、遺贈など)があるとき、相続分の前渡しとして相続分から控除します。

例:生前に1,000万円の贈与を受けた相続人は、その分を相続財産に加算して相続分を計算します。

寄与分

相続人が被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、その寄与分を相続分に加算します。

例:長期間の介護や事業への貢献などが該当します。

農地の相続

北海道には多くの農地があります。農地を相続する場合は、農業委員会への届出が必要です。また、農地法の制限により、農地の売却や転用には制限があります。

寒冷地での不動産管理

冬期間の空き家管理は特に重要です。水道管の凍結防止や除雪など、適切な管理を行わないと建物の損傷につながる可能性があります。

専門家への相談

相続手続きは複雑で、期限のあるものも多いため、以下の専門家への相談をお勧めします:

司法書士

相続登記、相続放棄の手続き、遺産分割協議書の作成など

税理士

相続税の申告、準確定申告など

弁護士

相続人間での争いがある場合、複雑な相続問題など

行政書士

遺産分割協議書の作成、各種許認可の手続きなど

まとめ

相続手続きは多岐にわたり、期限のあるものも少なくありません。悲しみの中での手続きは大変ですが、一つずつ確実に進めていくことが大切です。不明な点があれば、早めに専門家に相談することをお勧めします。

※この情報は一般的な内容であり、個別の事案については専門家にご相談ください。